『春』
『夏』
『秋』
『冬』
『露草の季節』
朝露を踏んで行こう
あのひとの所まで
羊歯の若葉やアザミの蕾は
踏まないで歩こう
トンボはまだ半分眠っていて
飛べないでいる
空気に胸が洗われる
朝露を踏んで行こう
でも 足もとの
小さな青い花は
踏まないように歩こう
『宴』
花のテーブルで
虫たちが
小さな宴
秋の日の
透きとおる
陽射しを浴びて
奪い合うことなく
自分に夢中
『月夜』
降る降る
月の光は染み透る
月はいつも
ひとりきり
晴れた夜のしじまには
月の光が満ちている
わたしもひとり
風の音を聞いている
明日も
明後日も
その翌日も
降る降る
月の光に洗われて
日ごと夜ごと繰り返す
波のように生きている
どこかで
ピアノがうたうよ
ぽろろんと
『アザミの蕾に聞いてみろ』
天が落ちるか地が轟くか
アザミの蕾に聞いてみろ
生きて行くにはどうすりゃいいのか
そこらのカラスに聞いてみろ
青なら地を這う露草に
赤ならトンボに聞いてみな
秋の陽の落ちることの素早さよ
黄金の田んぼを刈入れろ
冬は近いか遠いのか
ぴょこたんカエルに聞いてみろ
ほら、目の前にいるだろう
答えはすぐそこにあるだろう
見えてるものから取り掛かれ
『秋の狂想曲』
突風に枯葉が舞う
枝から離れて飛んでくる
ススキの群生が煌めいて
秋の陽に揺れている
私は今ここにいて
時の流れを見ている
終息と安らぎが
焦燥と孤独を
包み込もうとしている
湖の秋
『秋の散歩道』
小石を踏む音よりも
枯葉を踏む音の方が
ほら、心地良いね
サックリと
薄く脆い 乾いて縮まった
葉っぱの砕ける感触が
靴底に伝わってくる
カサッ パリン と
歩くたびに 微かだけれど
トーンの高い音の群れ
まるで 音楽のようだね
アーア、気持ちイイなあ
今日は いいお天気
風も優しく
背中が暖かい
アザミ ノコンギク
赤とんぼがたくさん飛んで
午後の陽射しに
きらきら輝いている
『アオゲラ』
キツツキの歌を聴いた
太い杉の梢のてっぺんから
静寂の中に響き渡る
高く澄んだ心誘われる歌
キツツキの姿を見た
赤い帽子に黄緑色のからだ
枝の間をすり抜けて飛び
広葉樹の上の方に留まった
あれはアオゲラの影
寒さを増した晩秋の森の中に
彼は少しずつ登り
くちばしで幹を突つく
寒い曇天の昼下がり
彼はひとり あるいはふたり
私は あなたとふたり
ポケットの中の手が暖かい
『火炎の森』
私は炎の中を行く
うねうねと続く道の両脇の
山々が燃えている
紅や黄や茶色に彩られた木々からは
ひらひらと葉が落ちてくる
車は急勾配の坂を上がり
雨に濡れた道を下り
二人は火炎の中を進む
冷たい風が落ち葉を運び
小雨に煙る湖の
終焉に向けた最後の爆発を
左のこめかみのあたりで聞く
『手』
冬を手招きいたしましょう
冷えゆく風にさやさやと
空の埃を掃きましょう
落ち葉は遊ぶからからと
月の雫を受けましょう
銀の野原でしづしづと
この地をひとり訪れた
あなたの背中にお別れを
冷えゆく風にさやさやと
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